実に悲しいなぁ、やるせない気持ちというやつだよ。
今年は色々あったようで何も無かった、海の上に浮かぶうたかたのように、ぷかぷか浮かんでは消えていった、そんな年だった。それは去年もそうだしその前もそうで、多分来年も再来年もそう。だって人生そのものがうたかたなんだから。

昨日はヘビが這い出てくる夢を見たよ、来年は巳年だっけ、縁起が良いのか悪いのか知れない。
僕が探し物をして引き出しの奥の方に、あるものが隠されているのに気がつく。それを取り出そうとすると、幾多の蛇が四方八方に散らばって捉えるべき探し物が見つけられない。蛇は身体をくねらせてそこかしこに自分の存在を知らしめすかのように動き回る。かず多くのヘビが大量に動き回ることで僕の頭も混乱していくのが分かる。何をすれば良いのか分からなくなってくる。僕はその引き出しの奥底に死体が横たわっているのを確認する。それらの死体はすぐ誰かにつき知らせなければならない重要な代物と分かりながらも、僕は僕の心の奥底にその事実をしまい込んで飲み込んでしまう。何か重要な知らせをつき知らせることなくその場から立ち去る。僕は罪深い人間なのではないかと思う。目が覚める。
蛇は変化や再生の象徴らしい。脱皮をして新たに再生する性質から。僕の変化や再生を暗示しているとしたら、それはどうだろう、良いことなのかも知れない。僕にはもうこの現状を打開することができないような気がしているから、環境や心境の変化が新たな再生へと向かうということであれば喜ばしい、でも僕は寂しくてならない、上手くいかなかった事への執着を捨てて、新たな道へ向かうということはそれでもまた同じ道に向かってみたくなる。
上手くいかなかった事への執着、僕は去年会社にいた時、営業電話をよくやっていた。一度通っていた家庭への営業電話なので新規ではないからそこまで辛いものではなかった。だいたい保護者が電話に出るから、定期テストの結果や受験への準備ができているかどうか確認する。何十件電話して、やっと1件2件感触がいい家庭があるかないか。大体平日の昼間なんかに電話したって繋がらないことが多いから、それこそローラー作戦で数を稼いでいくしかないし、僕はそんなに営業トークが上手いわけじゃないから、1シーズンに1、2件取れればいい所だった。一度感触が良いとどうしても期待してしまう、でも大体保護者の感触が良くても本人のやる気がなければ塾に通おうとはならないわけで、二度三度電話で会話してやっぱり体験しませんなんてこともざらにある。でもそういった期待の薄い家庭でも、一度感触が良いと思ったらその家庭ばかりに執着してしまう。「可能性がなければ、早く見切って次の家庭を探しなさい」って言われたけど、僕はいつまでも可能性の薄い家庭に電話をかけまくって、結局徒労に終わるのだった。営業が上手い人ってそういう見切りというか切り替えが上手い人が多い、僕はいつまでもダラダラと同じ家庭にこだわって時間と労力を割いて、後になって後悔するんだ。それはもうセンスがないというのだね。悲しいことだ。
僕はいつまでも同じ道にこだわって貴重な時間や労力を無駄遣いする。今と一緒じゃないか。でも執着はなかなか捨てられないんだ、女々しいなぁって思う、いつまでも同じ女のことを関係が絶えてしまったあとも記憶の中で追い続ける。誰もいないしんとした原っぱの中で、同じ人の名前を呼び続ける。風に誘われて木の葉の靡く音が聞こえて、小鳥のさえずりと小川のせせらぎと、僕は沈黙の声を聞き取って、全て徒労に終わっていることを理解する、もちろん数多の時間が流れ去った後に。

文学って意味がないんだ。太平洋の大海原にちゃっちいザルをひとつ浮かべるみたいなものだ。それを浮かべても浮かべなくても太平洋の広い海の中では何も意味もないことだよ。誰にも影響を与えたりしない。無限の情報が撹乱するインターネット上にみみっちい文章を載せることと、大海原にザルを浮かべることとどちらの方が意義深いだろう。くだらねぇ。こんなことを書きながら、いまだに一条の希望の光を期待している節があることもまた、実にくだらない。
腹が減った。何もしていなくたって腹が減る。ザルを浮かべても浮かべなくても腹が減る。はぁ。僕は記憶の彼方にある君のことを追い続ける。今どこで何をしているか、想像を膨らませて、そしてそれが宙に舞って、露のように消えてなくなる。消えてなくなるんだ。僕の記憶も君の記憶も、ここにいる僕もこれを読んでいる君自身も、露のように儚く消え去っていく。でもその事実だけは誰にとっても変わらない、それが僕の救いになるのかならないのか。
ありふれた比喩表現、朝露、うたかた、小川のせせらぎ。意味のない修辞技法。テクニックに過ぎない。何ものももたらされない。僕の存在そのものも、何ももたらさない。比喩表現、テクニック、僕という存在・・・。無駄な人生をただ引き延ばしているだけだ。蛇足だよ、蛇もビックリだ。
忘れえぬこと忘れるために 努力はいるのね
二度と結べない糸なら たぐりはしないわ
海岸線をふちどって 都会は輝く
あの人乗せたTAXIは 今どこを走る
もうしばらくは追いかけさせて
この胸の中で
夜の雲を見下ろすまで ライトがつくまで
テイルランプをあの人が 星と思うまで
松任谷由実 / 消灯飛行 より
