
源氏を読む。「須磨」の巻。源氏の良き庇護役であった父桐壺帝が亡くなり、さらに源氏の女遊びがついに露呈したことで、右大臣方に権力が移ってしまった。いたたまれなくなった源氏は独りひっそりと須磨(今の兵庫県)の海辺の方に居所を移すことになるが、いわば左遷のようなものとなる。須磨に赴く前には父親の桐壺帝の墓を訪ねたり、その奥さんである藤壺の宮にも恋しい胸をあらためて伝えたり、前妻の葵の上一家にも丁重に断りを入れていたり、もちろん自分好みに育てる紫の上に対しても惜しみなく別れの辛さを伝える。他にも六条の話だったりかつての愛人だったり、わりに丁寧に旅立つ知らせをしているのが興味深いような気がした。さて須磨に移ってその後どうなるのかはまだ読めてない。ただ話の展開として大きく物語が進んでいっている気がするのでまぁまぁおもしろい。あとそこかしこに源氏や女性たちの悲しみを余すところなく表現されていて、ここにこそ源氏のもっとも表現したい核の部分があるのではないかと思う。単なる不倫劇としてみるともちろんふしだらで非道徳的なものだけれど、それだったら鬼滅の刃だって物騒にも若い男どもが刀を持って人(鬼)の首を切り刻んでいるわけだからそんなもの倫理観のかけらもないと言って非難することはナンセンスというほかはない。源氏においても同様に不倫劇は物語を成り立たせる、フィクションを成り立たせる一つの要素であってそこが本質だと考えてはいけない。そしてその本質となる部分がおそらく日本文化の本質ともある程度リンクしているとも考えて良いかも知れない。
横浜線沿線にあるIKEAに向かう。部屋の模様替えついでに壁にアートをいくつか飾りたいと思う。せっかく壁紙を新調して床まで同色のおしゃれな色にしたというのに、壁に何もないというのはうら寂しい。そこで何か飾りつけるインテリアはないかと探しあぐねていたところ、やはりモダンな絵画をはっつけようということになった。しかしなるべく失敗したくないので入念にtiktokやyoutubeで下調べをしておく。センスのない自分が適当に絵画を寄せ集めたところでまとまりのないガラクタになるに決まっているので、どこで何を買ってどのように飾りつければ良いのかまで丁寧に見ておく。特に絵画の配置についてはよくよく目を凝らしてみておいた。バラバラの大きさのバラバラのジャンルの絵画をバラバラの位置に備えつけてもそれはまとまりのない雑なインテリアとなってしまうということだ。どんな美人でもパーツの配置が整っていなければ全く美人に見えないというのは確かにその通りで理解しやすい喩えだと思った。美人やイケメンというのはここのパーツが優れているわけではなく、ただたまたま配置が良かったにすぎないのだな。
彼らの言いつけ通りに同じ色の額縁を探す。店舗が広すぎてどこにあるのか見つからない。途中で気づいたのだがこの店舗はテーマパークのアトラクションみたいに順路が決まっていてすべてのフロアを一周しなければ商品の購入手続きができないようになっている。自分の見たいものだけを直線距離で探しに行くのではなく、IKEAが見せたい商品を(というかすべての商品とすべてのモデルルームを)見せたいだけ見せつけるというなんともマーケティングじみた構造になっている。入口が決まっていて、もちろん途中抜けや近道ルートもあるのだけれど、基本は入口から出口まで一本道をひたすら歩いていく。最初は言いつけ通りお目当ての額縁を探そうと躍起になっていたがどうも見当たらないし地図もない、どうやら僕はマーケティングの迷路に迷い込んだようだと気づくよりも先に、あらゆるIKEAの商品に釘付けになってしまい買うつもりのなかった商品にまでも購買意欲がそそられることとなってしまった。あれも買いたいこれも買いたい、さぁどれとどれを買おうかなんて巡り巡っていった時にはそもそも何を買おうと思っていたのか自分を見失っていた。気を取り直して、というか大体において丁寧に下調べをせずに購入すると失敗することになるしそれは僕自分が損をするというのもあるけれど、資源がもったいないという気分にもなる。せっかく購入した商品をその魅力を存分に発揮しないまま棚の奥底に放置するというのはなんだかいたたまれないように、地球に申し訳ないような気がしてくるので、とにかく十分な下調べのないうちに不必要な雑貨品を購入するのは、もちろん電化製品やその他諸々の文具品なども、なるべく減らすようにしている。
A4型黒額縁が2点、A6型黒額縁が2点、B4型黒額縁が1点。B4型はすでに数年前に買ったものが一つあるから。情けないことに、会計の手続きを前にしてその煩雑さに尻込みする。すべてがセルフレジ形式となっているがどうやって購入するか分からない。見よう見まねで列に並んでみたが何をどうすれば良いのは見当もつかない。いざ自分の番になると後ろに並んでる客たちの存在と店員さんの朗らかな笑顔とで、早く卒なくこなさなきゃならないと、なんでだかさらにパニックになる。店員さんは近くにいるが初めてなのでと聞くこともできない、こんなことも分からないのかと思われるのが恥ずかしいからと僕程度の人間に時間を取られるということがそもそも勿体無い。もっと時間をかけるべきところにかけてほしい。僕のことを気にしないでほしい。僕を見ないでほしい。お願いだから僕の存在に気づかないでほしい。
なんとか周りの人を見ながらスマホのアプリで会員証を読み取って持ち込んだ商品のバーコードをかざす。どこにかざしていいかわからないがさっきの会員証を読み取った箇所にかざしてみる。一応読み取ってくれた。しかし機械の右手にバーコードを読み取る用のセンサーがあって、もしかしたらこちらで読み取るのが正解だったのではないかと思うが、画面には間違なく自分の商品が記載されているのでこのままにしておく。さらに他のものも全て読み込み料金を確認するが何かおかしい。自分が持ち込んだものもう一度確認して、画面の記載と相違がないか見合わせる。あまりにも安いので幾つかの商品が漏れているのではないかと思うし場合によってはここで商品を全てスキャンしなければ当然万引き犯として刑務所行きなのではないかと思った。水原一平だか立花隆だかの刑務所にいる芸能人(立花氏は留置所か)が頭の中を掠めてきて背筋が凍るような思いがした。5点も買っているのだからもっといくはずだという僕の感覚と、目の前に映し出されている数字が全く合致しない。そうかIKEAは安いのか。
さあお会計、と思った時にそういえばこの商品をどうやって持ち帰るのかと我に返る。今までは店舗専用の黄色い袋に入れて持っていたが、この大荷物を(重さは大したことはないがB4の額縁はそれなりに大きい)どうやって自分の小さいリュックサックに入れようかとスイカを鼻の穴に入れるみたいに不可能な問いにぶち当たる。どうやっても入らないので手で持って返るのか、いや今まで自分は持って返ることを全く考えずに購入しようとしていたのかと思うと自分が愚かで情けなさすぎて嫌になる。すると目の前にお持ち帰るようの青い袋を発見する。99円だったがとてつもなく安く見えた。確かに電車などでたまにこんなでっかい袋を下げてる若い兄ちゃんがいるような気がしてたが、そうかこれはでかい家具をそのまま持ち帰るときにこれも同時に買わされているのかと、なんだがいろんな辻褄が合った気がした。しかしマーケティング上手だな海外は。
何気ない日常をこの頃とかく綴っているのだが、なるべく価値判断を薄めながら書くことを心がけている。何でもかんでも批判するのではなくして事実をそのままにまず伝えていくようにしないと最も伝えたい思いが浮かび上がってこないような気がする。さりげないスパイスくらいの感覚が一番その味が自然な形で伝わるのではないかと。以上つまらない日記がこれからも続くと思いますがご容赦を。

