昨日は恵比寿に行って初対面の女性二人と飲み歩いた。
ナンパ好きの先輩と居酒屋に行って、気になった人に声を掛ける。
気が合えば2軒目3軒目、合わなければまた別の女性に声をかける。
僕はまだ初心者なので先輩の後ろについていった。新卒のOJTみたいだった。
歯科衛生士だと自称する二人組の女性。仕事のことを掘り下げてもあまり詳しく教えてくれない。
本当に歯科衛生士なのか怪しいと思ったけど気まずくなるのも億劫なので話題を変えた。
話題を変えて苦吟したことは覚えているのだが、何を話したか。1日経ったに過ぎないのに、特に思い出せないというのは、僕の記憶力の問題なのか、お酒が入っていたからなのか、そもそも身のない内容だったのか。
黒髪ロングの女、ノースリーブの黒いニット生地のトップスに、デニムのロングスカート。黒ニットに膨らむ小ぶりな胸に目がいった。でも騙されちゃいけない、ともう一人の僕が言った。
どうしてこんなところで飲んでいるのか、好きなタイプ、趣味、今期のアニメの話。連れの先輩と少しく見ているアニメが被っているようだった。でも話が弾むわけではなかった。
茶髪セミロングの女、上品で綺麗めな服装だったけど、詳細には思い出せない。
ちいかわが好きで、スマホにいくつものシールを貼っている。ポケモンGOが好きで飲みの合間にもアプリを開いてポケモンを見せてきた。特に盛り上がらないのでまた話題を変えた。
二件目はダーツ兼カラオケのバー。他人のカラオケを聞かされて幾分不愉快だった。僕は歌が下手くそなので一度も歌わなかったが、彼女らはそれなりに楽しんでいるようだった。でも多分先輩が一番ノリノリだった。
桑田佳祐の「白い恋人」、ジャニーズの「なんとかチャッカパーナ」、流行りのアイドルの「可愛いだけじゃダメですか」、モーニング娘。の「ラブマシーン」。モニターに映し出される古めかしいPVと、カラオケの歌詞。冷静に歌詞を読むと現実に引き戻される。「明るい未来に就職希望だわ」「日本の未来はwow wow wow 世界が羨むyeah yeah yeah」。バブルを夢見る就職氷河世代。不景気ゆえのカラ元気。その雑多で荒れた雰囲気とPVの画質の荒さがいい味を出していて、良い知れぬ古き良き時代の懐かしさを思わせてくる。バブルに乗り損ねた氷河期世代、そんな喧騒にも遠く切り離された、今この瞬間。
黒髪の女が前方不注意でグラスを割った。
茶髪の女の歌がまあまあうまかった。
先輩の上機嫌ぶりが最高潮に達した。隣のにいちゃんと一緒に歌って肩を組んで酒を飲んでいた。
どこの誰だか知らない歌声が聞こえて、知らない曲の稚拙な歌詞がこだまして、目の前の女たちの顔が二重に見えてきた。これ以上飲んだらあとで吐くな、と思った。先輩のノリに釣られてハイボールを一気に飲み干した。
3軒目はホテルに連れ込むべきだった。カラオケに行くことになった。すべての悪の根源はこの判断ミスだと思った。
つまらない歌を聞かされて、吐き気がして、トイレで三回くらい吐いた。なかなか胃の中に燻ってる汚物が吐き出せなくて四苦八苦した。唾を吐いて、呼吸を整えて、僕の幸福な人生を想像して、思いっきり汚物を吐き出した。来世は神聖で聖母のような女と結婚するんだと思った。永遠の処女性のようなものが頭を掠めて、目の前の汚物を光らせた。
ドロドロの汚物を見ながら便器に頭をもたげている時の自分ほど、情けない気持ちがすることはなかった。
吐く瞬間の苦しさは今までの人生の苦しさを全て凝縮したみたいな苦しさだった。いつも思うことだけれど、程よく酔って楽しく有頂天な気分と、すべての苦しみを凝縮した苦しさと、全く調和が取れていないと思った。苦しみが大きすぎる、代償が大きすぎる。
この苦しみと、武士が切腹する時の苦しみとはどちらが苦しいのだろうかと思った。
日本刀で腹を切る時のことを想像した。鋭く磨かれた刃の先を、腹に当てがって血が吹き出し、それをもろともせず腸をかき切る様をリアルに考えると、とてもじゃないが僕には無理だと思った。刃の先端を腹にあてがうところでもうすでに心が折れた。先端恐怖症じゃないかと思った。
「心は死んでいるけど、体は生きている」という無様な生き方。
「体は死んでいるけれど、心は生きている」という武士の清々しい生き様。
食べ物を粗末に扱ってはいけない、犬猫にだって感情はあるんだから殺処分なんてしちゃいけない。
人間の心を粗末にするのはどうなのでしょうか。