雨が続く。どんよりとした週末。忌々しい宣言もあと1週間は続く。
洋光台からの根岸線、人はまばら。席に座る。周りは年配が多い。休日はファミリー層がベビーカーをひいているのをよく見掛けるが、今日は雨なのでそれも見当たらない。前に座っている女性は折り畳み傘を畳んでケースにしまおうとしている。しかしなかなかケースに収まってくれない、傘に対してケースのサイズがギリギリすぎる、と遠目に見ても分かる。3、4回試してやっと入った。サイズの間違えたコンドームを入れるときみたいだ。あれは結構骨が折れる(骨が折れる)。でもどうして折り畳み傘なんだろう?こんな大雨なのに。午後から晴れることを見込んで?よく分からない。
東横線に移ると、一気に年齢層が変わる。見るからに若者が多い。混み合っていて座れそうもないので窓側の背もたれに寄りかかる。前にはネイビーの学ランを羽織った高校生らしき少年。スマホのゲームに夢中になっている。たまに画面で寝癖が跳ねていないかをチェックしている。僕も寝癖がついていたらどうしよう。ふと、窓を鏡代わりに自分の髪の毛を確認する。大丈夫だ。今日は問題ない。他には、明るいベージュのロングコートを着た若い女性が目に留まる。年齢は20代半ばくらい、髪は茶髪で軽く巻いている、とてもトレンドライクだ。後ろ姿しか確認できないが恐らくまぁまぁな美人だろう、でも性格がキツくて僕とは馬が合わない、そこら辺までわかる。トレンドライクな着こなしの人が多い一方で、薄汚れた黒いキャップ被った中年おじさんもいる、ユニクロの黒いウルトラライトダウン(僕は同じものを浪人時代に愛用していた、意外と暖かくて使いやすい)を一番上までジップを締めて、首からキャノンの大きなカメラをぶら下げている。とてもトレンドライクとはいえない装いだが、靴だけはわりにハイテクで洗練されたものを履いている。オシャレがよく分からない人はとりあえずハイテクスニーカーをチョイスする傾向にある、と思う。
僕は視線を窓の外に映す、多摩川の河川敷が見える。快速なのでもう川崎まで来てしまった。河川敷の野球グランドが水浸しになっている。今日の草野球は中止だろうな。土曜日だから朝から草野球をやろうと張り切っていた社会人たちも、今日は諦めてステイホームかもしれない。サークルなら代替企画でボーリング大会かなんかをするかもしれないが、疲れ切った社会人たちは、そしてこのご時世的に、何もせず1日を送ることだろう。午後から試合がある場合はどうだろう、あるいはナイターの場合はギリギリできるだろうか。どうだろう、分からない。ただ午後から晴れたとしてもこのグラウンド状況では少し厳しいかもしれない。恐らくこれと同じような文章が草野球チームのグループラインにも流れていることだろう。とても遺憾に思う。
山手線に乗る。人が多い。さらに若者の割合が増える。つまらない会話も聞こえてくる。僕は考えるのをやめる。
ふと、財布を忘れたことに気づく。すっかり忘れていた。いつもと違うバッグを持っていく時は財布を確認してから家を出るように、と決めているのに。最近はキャッシュレス決済が進んでスマホでほとんど支払うようになってしまったから、財布を忘れたくらいでは何とも思わないようになってしまっていたのだが、友人と遊ぶような時にはやはり必須だしバッセンに行くなら尚更現金じゃないと使えないに決まっているじゃないか。僕は昨日そういう風に自分に言い聞かせた気がする、どうして忘れるんだ。この前も飲み会の時に財布を忘れて迷惑をかけてしまった。嫌になっちゃう。
中央線に乗り換える。人は少ない。年齢層もバラバラ。よく分からない。ぱっと見、20代前半くらいの男性が、隣の女性と手を繋いで座っている。カップルだろうと思う。髪がやけにばっちり決まっている、茶髪で、パーマもかかっていて、艶もある。しばらく眺めていると気配を感じたのか、僕の視線に目を合わせてきた。
「君には彼女がいないんだな、可哀想に。」
「いや、僕はいないんじゃない、妥協してないだけだ。なんとなく付き合うというのが合わないだけで、君みたいな遊びだったら僕にだってできる。」
「まぁまぁ、そんなに怒らないで。君はやればできる、それはわかる、それはわかるよ。でも現状君の手にはスマートフォン、僕の手には肌の温もり。」
「いや、」
扉が開く。信濃町駅だ。僕はここで降りる。
「逃げるんだね」
「いや、逃げるんじゃない、それに僕は君より、、、」
言葉が出てこない。諦めて電車を降りる。
僕らは目だけで会話をした。
それではまた!