
『影』
電車の揺れる すきま風
車内灯に惑う(まどう)虫 吊り革ゆらゆら
枕木ごとごと 革靴ことこと
車窓の先に 無数の明かり
赤黄の踏切 人々の群れ
現れ出ては 消えてゆく
ふと鏡のように 僕の影
浮かんでは 溶けていく
浮かんでは 溶けていく
『月』
敷き詰められた 電車から
押し出されたよ 階段の
足音足音 雑踏の
改札抜けて 颯爽と
風吹き抜けて 煌々と
照る月明かり 茫茫と
繁る木陰に ひっそりと
待つは 何処の月ならん
『月明かり』
コツコツ 革靴
コツコツと 夜道にそよぐ
冷たさに トラック走る
排気ガス 街灯あたる
影一つ 伸びては消えて
また伸びる コツコツ
革靴 コツコツと
それはかとなく 風そよぎ
柳のざわめき 闇夜に揺れて
雲たなびくは 影よろめかす
それ月明かり
『心』
手すりにもたれかかって
われ知らず
運ばれていく
3階
紳士服のマネキン
ネイビーのジャケットに
上質なスラックス
四角い眼鏡をかけた店員
4階
「お子様を連れの方は」
「手をつないで」
「ステップの中央付近にお乗りください」
小規模な学習塾
進学実績のチラシ
合格者のはにかんだ笑顔
ひとりでに運ばれて行く
足元も見ずに
ひとりでに
すれ違う人々
行き交う家族連れ
笑ったり
咳き込んだり
遠くを見つめたり
6階
本屋とレコードショップ
雑誌とにらめっこ
『棺桶まで遊んで暮らそう』
名も知らぬレコードが並ぶ
記号の羅列
繰り返す場内アナウンス
「終日禁煙となっております」
7階
ユニクロ
「季節限定!エアリズムTシャツが登場!」
マネキンに見つめられる
それとなく目を背ける
ジャケットを手に取る若者
鏡の前で浮かない表情
「いらっしゃませ」
「全ての商品を右側のスペースに置いて」
「赤いボタンを押してください」
「いらっしゃませ」
「全ての商品を右側のスペースに置いて」
「赤いボタンを押してください」
8階
メディカルセンター
ドアは落ち着いたブラウン調
内装は
真っ白
受付の女性の肌も
真っ白
さらに足を運ばせる
冷たい手すりの感触
手が先に引っ張られていく
どこまで続くのだろう
終わりはあるのだろうか
12階
ゲームセンター
太鼓の達人
荒ぶる高校生
制服のシワ
シャツが捲れる
「超限定!」
「ここだけの思い出の写真を撮ろう!」
足は止まらない
プリクラ
手すりは進む
思い出の写真
同じ速度で
どこに向かう
『超限定!」
心は置いてけぼりで

