「声」
夜更けのベランダで
タバコの煙に揺られながら
伸び切った爪を
指の腹に押し付ける
吸い殻のタバコが
体をくねらせて横たわり
消え掛かった火の粉を
そのままにして
冷えた空気を吸い込むと
喉の奥で何かが詰まって
咳払いするけれど
低い唸り声が響くだけ
風が木々をしならせ
街灯は灯り続ける
遠くの裾野から
淡い光が漏れ出して
明日がおはようと言いかける前に
部屋に戻って布団を被る
眠れぬ喉の中で
何かが鳴り続けている

「お疲れ」
お疲れさまと
馴染んだ言葉に
慣れなくて
帰りの電車
ガラスに映る
いつもの自分
瞳の奥が見えなくて
通り過ぎてく
夜の街
明かりがまばらに
浮かんでて
雨粒ガラスに
降りかかり
自分の頬にもしたたって
窓を拭いても
顔を拭いても
まとわりついて
雨の止むまで
疲れたい

「はたと」
足を組んでも
疲れるだけで
もたれかかっても
ずっしり重く
立ち上がったら
猫背が浮かぶ
歩き出したら
運ばれる
靴音遠く
夜道に響いて
転がる小石
はたと止まる

