2026/10/19 ぬるぬるが取れなくて 〜落合陽一「null2n(ヌルヌルネクサス)」〜

2026/10/19 ぬるぬるが取れなくて 〜落合陽一「null2n(ヌルヌルネクサス)」〜

※ネタバレを含みます。

珍しく朝からベランダで一服。今週はしばらく休みが続くのでいつもよりまったりできる。何かに追い立てられることなく、静かに椅子に腰掛けて、外の空気を吸えるというのは実に尊い。空は清々しい秋晴れ。背中を朝日が照らし出して大きな影法師ができる。じっとしていると、暑くなって首の辺りがジリジリ音まで鳴り出してきそうに思われる。自分の影をぼーっと見つめがら今日は何をしようか考えたり考えなかったりした。そういえば蝉の声はしなくなった。

電車に乗って桜木町。図書館でいくつか本を返し、いくつか借りる。月曜なのであんまり人が多くない。詩を読むと決まって眠くなる。

どこかぶらぶらしようかと時計を見たら、思ったより時間がギリギリなことに気づいて少し早足になる。海風なのかビル間風なのか、早足が心地良い。

ランドマークプラザの5階で落合陽一プロデュースの「null2(ヌルヌルネクサス)」なるものを鑑賞する。11:20に予約していた。一つ一つの空間を20人ほどのグループで回った。

内容は現代アートと最先端のテクノロジーを組み合わせたような感じで、今までにない新鮮な感覚があった。全面にLEDパネルが取り付けてあって、そこを抽象的な模様なのか生命体みたいなのがうようよ動いていた。でも動いていたというよりも、なんだか細胞がうごめいているような感じで、神秘的でありながらも奇妙なものでもあり、でも美しさもあるような、そんななんともいえない映像だった。

途中にはそれまでとは打って変わって、急に何も見えない真っ暗闇の部屋に変わった。何が起こるかとそわそわしていたら、スピーカーからただ日常の音や会話が流れるだけで何も起こらない。手元を見ても前を見ても後ろを振り向いても何も見えない。すべてが黒で包まれている。もはや自分がいるのかどうかすらも不確かになる。深い闇が身体に迫ってきて、もっというとそれが心にも侵食してきそうな勢いで胸がつまる。と言っても音を聞く以外に何もできないし、もちろんスマホを出したり他の人に話したりとかもできないから、ただただじっと音に耳を委ねて、あるいは音に身体全体を委ねていた。しかもこれが結構長い。15分くらいはあったんじゃないだろうか。とりあえず唾を呑み込む。ゴクリと鳴る。息を吸う。上手く吸えない。指をつねる。痛い。メガネの縁を触る。一人ではないらしい。でもそのうちに、どうしてもいたたまれなくなってくる。心臓の音が波打つ。何も見えない。ドクンドクン。追いかけてくる。それが自分の音なのかスピーカーから流れる音なのか、よく分からなくなったあたりで次の部屋へ。

やっと明るい場所に出れてホッとする。そしてホッとした先に目に飛び込んできたのはこれまたビックリ、そこには人類が今まで作り上げてきた機械や道具、電子機器の類だった。蓄音機、ハシゴ、弓矢、船の模型。あるいはプレイステーション、ゲームボーイ、タイプライターにスマートフォン。しめ縄や土器、百人一首もある。それらがただそのまま展示されている部屋になっていて、あとはまた鏡張りの中で驚く自分の顔が映し出される。

どういうわけか安心する。物があるのを見ると落ち着く。一人きりではなかったのだと思う。もちろん明るいからというのもある。でも土器も蓄音機もゲームボーイも、すべてそれがあることによって、それが目の前に見えることによって、僕がここにいるという感じがする。それはもしかしたら、人間の根源的な欲求なのかも知れない。真っ暗闇の中で、音以外に何も拠り所のない世界。そしてそのあとにモノが僕らを照らし出す。普段何気なく扱っていた機械や電子機器というものに、いつもとは違った価値を感じないではいられなかった。

さて、音と映像、道具や機械に電子機器、そして切迫した闇の空気に包まれていたら、60分間異空間を彷徨ってたみたいだった。チケット代はその分高価ではあったけれど、今まで見てきた現代アートの中では一番心を揺さぶられたかも知れない。でもその揺さぶられ方というのはなんだか良いものだか悪いものだかよく分からない。というか早く外に出たい。あんまり考えたくない。

でもしばらく、映画を観たあとみたいに余韻が取れなくて困った。少し怖かった。息苦しい感じがあった。ホラー映画でお化けを見て怖がるとかそういう類の恐ろしさではなくって、もっと根源的で、得体の知れない何者かに首根っこを掴まれているような感じだった。正直近くの子供が泣き出した時、自分も泣き出したくなった。母親が頑張ってあやしていたけれど、僕にはもちろんあやしてくれるものはなかった。

さて、外をぶらぶらしてまた陽射しがジリジリ肌を鳴らす。ジャケットを着てきたけどもしかしたら着なくてよかったかも知れない。でもその暑さがなんだか嬉しい。そしてそこに風が当たる。前髪がグチャクチャになるけど別になんでも良い気がした。カップルが腕を組んで歩いていたりサラリーマンがコーヒーカップを片手に急いでいたりした。

僕はカフェに入ってまた詩を読もうとして、本を片手にウトウトしたりした。