もう10月か。何も感じ取れずに月日が巡り巡っていくことがやるせないな。季節の移り変わりを存分に感じ取れないというのが不愉快極まりない。何も身体に入り込んでこない。何も頭の中に入っていかない。だから何ものも生み出すことができない。身体の中の季節が巡っていかない。いつまでも夏のまんまで頭の垢が剥がれていかない。コンクリートの壁で隔てられて息絶え絶えになりながら死んでいくのはごめんだ。息を吸わせてくれ。鼻をこじ開けてくれ。口を閉じろ。目を瞑れ。目で見えているものを信用するな。肌で感じろ。空気を肌で感じさせてくれ。風は一体どこで何をやっている。陽の光はごめんだ。もう勘弁してくれ。空気を巡らせてくれ。壁に風穴を開けろ。プラスチックのすべてに穴を開けろ。コンクリートをぶち壊せ。頭の中が膿でいっぱいだ。何ものも通り抜けていかない。すべてが滞っている。ロボトミー手術でも何でもしてくれ。風をくれ。空気を注入してくれ。酸素を巡らせてくれ。窒息する。穴はどこだ。あぁもう穴があったら入りたい。
乏しい空気の中で考えを巡らしてみる。酸素が足りないので高山病みたいになっているかもしれない。話が論理的じゃないかもしれない。でもそれはしょうがない。頭の中に空気が足りていないのだから論理のへったくれもない。
さて、自然の空気を感じ取れないというのはどういうことに起因するんだろう。まず部屋が外界と隔てられているのがいけない。鉄筋コンクリートがいけない。窓ガラスがいけない。せめて木材の温もりをくれ。あと何でもかんでもピシャリとしまっているのがいけない。歪みを作ってくれ。寸分の狂いもなく外と隔てられているのが気に食わなくてならない。独房に住まわされているような気がしてならない。ここが大きな問題だ。これをどうにかしないといけない。さてこれらは何に起因するだろうか。はっきりと境界線を作って内と外を明確に区別するというのは実に西洋近代的な合理主義を前提に置かなければならない。彼らは無駄を嫌うし不確かなものを、予測不能はものを考慮に入れたがらない。内側は理解可能なもの、計算可能なもの、外は理解不可能で計算不可能、予測不可能、そう言った明確な区分、または外側に対する不信頼が強固な境界線を作り出す。まぁほんとかどうか知らない。
となると当然ありうる質問としては、つまり窓を閉めなければいいしシャッターを下ろさなければそれでおしまいだと。それはそう。しかしこれの困ったことはそうさせてくれないものがいるということ。つまり「彼」のむつかしい性格がそれをさせてくれない。僕はいい加減にしてほしいといつも思っている。「彼」の指示に従って毎回シャッターを下ろしているのだからそれによって僕が大いに苦しめられて窒息して息絶え絶えになって日々過ごしている。穴があったら入りたくなるのは実のところ「彼」のせいなのである。そうだ、「彼」のせいなのだ!今空気の乏しい頭でこれを考え始めてやっと原因を突き止めることができた。しかしこの論理は筋が通っているのか?空気の乏しさがどれほど論理に影響しているのか僕には判断がつかない。ともあれ、ここで彼の言うところを一応整理しておく。

つまり彼曰くこういうことらしい。
夜になってしばらくすると、外の「暗がり」がどうしても気になり始める。網戸にしているとひんやりした風が吹いてくるのだけれど、同時に外気の「暗がり」が入り込み始める。そしてそれは窓を閉めていても、あるいは窓を閉めていた方がなおさら(それはガラス窓が悪さをしているらしい)、恐るべき「暗がり」が入り込んでくる気配を感じるという。
もっと言えば、部屋の中を照らしている白い蛍光灯が外に漏れ出している、その漏れ出し具合も気がかりでならないという。側から見れば、ただ単に一つの部屋に明かりが灯っているに過ぎない。でも彼からするとそれは自分の中から何か大事なものが外へ漏れ出している、あるいは自分のことをそのまま外に曝け出している、または裸で外に立っているような感覚でもあるという。
そうしてそんな恥じらいから(そう、彼は恥じらいの感覚から動いている)、彼は僕に命じて仕方なく重い腰を上げて部屋のシャッターを閉めさせるのだという。
そして先ほどの話に戻るが、ここから空気が遮断される。
窓を閉めてシャッターを閉めて、さぁ今日も終わりだという感覚と同時に急に寂しさのかけらのようなものがウヨウヨ部屋の中を這いずり回ってくる。そんなはずはないのだけれど、カシャンという響きが、どうも外の世界と区切りを表すかのようで、なんだか心もとない気分に襲われる。せっかく虫の声に心も体も和んでいるような感じもあって、夜風が入り込んで来ればさらに落ち着けるのに、何でこんなことをするのだろうと思う。でもこれをしないと外に灯りが漏れてしまうし、裸のまま外に出ることになってしまう。
果たして誰がいけないのだろうか。彼に責任を負わせるべきだろうか。コンクリートがいけないのだろうか。
僕にはよく分からない。

